//--------------------------------------------------------------- //『世界一、受けたい虚○を。』 // Copyright (C) 2016-18 3 on 10 -サンオントウ- // // ・「//」で始まる文章は、指定などのコメントアウト文です。 // // ・「/*コメントアウト*/」こちらもコメントアウト文です。 // // ・《漢字/かんじ》でルビを振ってあります。 // // ・【記号】「台詞」 //指定 で指定が付記してあります。 // //--------------------------------------------------------------- /*----登場人物(記号)説明--------------------------------------- 【渡会】 …… ヒロイン。2年生。主人公と同じクラス。渡会綾瀬。 【ジャ】 …… かわいい精霊。デスノートでいうところのリューク。 ------登場人物(記号)説明ここまで-----------------------------*/ //Chapter.3-1 ウソノート - Jabberwock - /*----シーン説明ここから------------------------------------------  渡会がノートに「会田くんに告白してフラれ」と書いた瞬間  ノートの表紙に描かれていたキャラクターが飛び出してきた。  ノートから飛び出したキャラクターは「ジャバウォック」と名乗った。  このノートに「(過去、既に起こった)事実」を書いた人間だけに  ジャバウォックは見えるようになるのだという。 ※ジャバウォックの発声に関して ・語尾や調子に「ウォック」「ジャバ」 ・「おまえ(ら)」→「ウォバエ(バ)」 ・「お」「を」→「ウォ」 ・「わ」「は」「が」「ま」→「バ」 ・「だから」→「ジャバら」 ・「けれど」→「ジャれど」 ・「じゃあ」「じゃな」等→「ジャバ」 ・「ばかり」→「ジャバり」 ・鳴き声→「フシュルル」 ・×変換しない「だ」→「バ」 ------シーン説明ここまで----------------------------------------*/ //背景、渡会の部屋 【ジャ】「ジャバら、そろそろ。信じたんジャバいかと《思/ウォも》うウォック」  綾瀬の目の前、ふわふわ浮いてるウォッくんがそう言いました。 【渡会】「いやいや、おかしい。おかしいです」  言いながら、食い入るように、綾瀬はスマホの画面を見つめます。  さかのぼること、1年前のお天気模様。  4月17日(金)、会田くんへと告白した日。  ヤフーによると、降水確率、100%。  その日のお空は、1日通して雨マーク。  なんということでしょう。  会田くんへの告白のあの日は、雨が降っていたというのです。  そんなはずはありません。  だって、あんなにも桜が綺麗だったのに。  散りゆく桜の花弁の一枚一枚を、あんなにも愛おしく見送ったのに。  なのに、それなのに。  あの日のすべての思い出が、ウソだったとでもいうのでしょうか。 【ジャ】「ウォかしくないウォック。ぜんぶ、ウォレの言った《通/とウォ》りウォック」 //「ウォレ」=「オレ」 【渡会】「それは――たしかに。綾瀬の記憶で晴れだった日が、雨に変わってますけれど」 【ジャ】「ウォックック。ジャバら言ったウォック。そのノートに書かれたことバ、ぜんぶ、ウソになるウォック」  そのノート――さっき綾瀬が、初恋物語の序章を《綴/つづ》ったノートです。 【渡会】「でも、ちょっと待ってください。まだ綾瀬、ウォッくんのこと。そこまで信じたわけじゃないです」  綾瀬の中に萌え出でた疑惑の芽は、たちまち積乱雲のようにむくむくと膨らんでいきます。 【ジャ】「ウォック?」  あの日が――綾瀬が会田くんに告白をした日が、雨だった、なんて。  そんなこと、ありえないです。  控えめに言っても、ありえないです。 【渡会】「むしろ、あまりにデキスギなので、なおさらおかしいです。何か仕掛けがあるはずです」  校庭の隅、桜の木の下。ちょうど散り際だった桜が、いっそう美しかった春。  あの日、空から射し込んだ、木漏れ日の温かさだってまだ覚えています。 【ジャ】「フシュルル。とにかく、ウォかしくないウォック。ぜんぶ、ウォレの言った《通/とウォ》りウォック」  だいたい、雨が降ってたら、告白するはずありません。  雨は、告白の天敵です。  ですから綾瀬は、天気はしっかり気にしてたんです。 【渡会】「おかしいです。そんなツゴーのよい話が、あるわけないじゃないですか」  気にしてたんです。  綾瀬は毎日、恋愛運と天気予報は気にしてるんです。  なぜ、って。それは、当然です。  いわゆるひとつの、夢見る乙女のたしなみの内のひとつです。  だって、告白の日に雨が降ってたら、まとまるものも、まとまりません。  だって、髪だって、まとまりません。  髪がまとまらないんですから、告白だって、まとまりません。  天気は晴れで、恋愛運は第1位。  その日の綾瀬の運勢は、恋のジャンピングチャンスだったんです。  ですから綾瀬は、万全を期して、万難を排して、告白を。  告白を。まとめにいった――はず、でした……。 【ジャ】「ツゴーバウォいとかバるいとか、そういう《話/バなし》ジャバいウォック。それバ、そういうものウォック」 //意味:「そういう話ジャバいウォック」=「そういう話じゃないんだって」 【渡会】「うーん、ですがやっぱり、まだちょっと。そういうもの、とか言われましても……」 //スーパーで食材を見ながら夕食の献立を考えるような口調で  そういうもの、とか言われましても。  ツゴーのよしあしは、抜きにしましても。  やはり、それでも、どうしても。  にわかには、信じがたいというものです。  いまこの状況――綾瀬の記憶で晴れだった日が、ヤフーでは、雨になっている。  どう考えても、おかしいです。  綾瀬の記憶が、まさか間違っているはずはありません。  いったい、どういうことでしょう。  ともすれば、ヤフーの中のひとのミスでしょうか。  それとも、これは……もしかして、これが―― 【渡会】「――いま流行りの、サイバーテロというやつでしょうか。だとしたら」  もしそうだとしたら、ピンチです。全体的に、ピンチです。  ヤフーの、もしくは、ヤフーのジャパンのピンチです。  ともすれば、ヤフー以外のジャパンまるごとピンチです。 【ジャ】「テロジャバくて、そういうものウォック。このウォレバ言うんジャバら、《間違/バちバ》いないウォック」 【渡会】「コノウォレバー、とか言われましても」  イマイチ、説得力がありません。  だってもう、ウォッくん自体が、びっくり動物さんですから。 //ここから少し回想 //煙の中からジャバウォックが出現するような演出  ウォッくんは、ノートの表紙から飛び出してきました。  ちょうど綾瀬が、会田くんとの思い出を。ノートに綴った、その瞬間です。  ノートの表紙がむくりと膨れ、パタパタと。 【ジャ】『ウォックック。ウォレウォ呼ぶのバ、誰ウォック?』  羽音とともに、登場したのがウォッくんです。 【渡会】『わあ。すごい。はじめまして。渡会綾瀬です』  ウォッくんを見た瞬間に、綾瀬はすぐに理解しました。  いま流行りの3Dプリンターです。立体がピャっと作れるやつです。 【ジャ】『ウォレの《名前/ナバエ》バ、ジャバウォック。“虚構”と“虚像”ウォ司る精霊ウォック』  パタパタと、ウォッくんは浮き上がりながらそう言いました。 【渡会】『わあ。すごい。そんな感じなんですね。思ってたより、音とかしないで飛びますね』  ウォッくんが浮き上がった瞬間に、綾瀬はすぐに理解しました。  いま流行りのドローンです。すごい映像がピャっと撮れるやつです。 【ジャ】『ウォレバ呼バれたということバ、ウォバエバ、ノートウォ使ったウォック』 //読み:「ウォバエバ」=「おまえは」  綾瀬の問いに、ウォッくんはそんな風にして答えました。 【渡会】『わあ。すごい。おしゃべり上手なんですね』  ウォッくんが答えた瞬間に、綾瀬はすぐに理解しました。  いま流行りの《AI/エーアイ》です。ペッピャーとかいうロボットです。 【ジャ】『ウォバエバ使ったそのノートバ、書いたことバすべてウソになる“ウソノート”ウォック』 //「ウォバエ」=「おまえ」 【渡会】『えっ……まさか、そんな……』  ウォッくんが答えた瞬間に、綾瀬はすごく驚いてしまいました。  さすがの綾瀬も、これには驚きを禁じ得ません。  いったい、なんということでしょう。  すごいです。これは、すごく、すごいことです。 【渡会】『……ウォッくん、ちょっと――』 【ジャ】『ウォック?』  なんと最近のAIは、冗談も話すことができるようでした。 【渡会】『――たとえば、大喜利とかできたりするんです?』 【渡会】『隣の客は?』 【ジャ】『よく柿食う客ジャバ』  やっぱりです! ふわあ、AIってほんとうにすごいですよね! 【渡会】『きゃっきゃっ』 //文字通りに「きゃっきゃっ」とは言わず、ウォッくんにじゃれつくような雰囲気の演技をください。 //少し回想、ここまで  ……なんて、そんなことが。ほんの少し前に、ありまして。 【ジャ】「動物ジャバくて、精霊ウォック。ウォレバ“虚構”と“虚像”ウォ司る精霊ウォック」  そんなこんなで、綾瀬の部屋は、いつもより。少しだけ、賑やかになっているのでした。 【渡会】「呼び方なんてどうだってよいんです。動物だってロボットだって精霊だって、ウォッくんはかわいいのでなんでもよいです」 【ジャ】「なんでもウォいジャバ、ウォレの言うことウォ信じるウォック。ノートに書かれた出来事バ、すべてバウソになるウォック」 【渡会】「うーん、でも、綾瀬は流行りのサイバーテロだと思うんですよね。もしくは、ヤフーの中のひとのミスなのかなって思うんですよ」  うんうん、そうです。そうですよね。常識的に考えて。  やっぱり、そういう。サイバー的なテロ、あるいは、ヤフー的なミスですよね。  綾瀬の中でのヤフーの株は、とっくの昔にストップ安です。  あたかも1929年のウォール街よろしく大暴落です。  ですからヤフーの天気であれば、《誤植/ごしょく》や《誤謬/ごびゅう》が生じる余地があるのかもしれない、と。ごくごく自然に受け入れられるほどでした。  少なくとも、書いたらウソになるノートよりは、800倍ぐらいもっともらしいです。  サイバー的なイリーガルなメソッドと、書いたらウソになるノートとでは、頼り甲斐がまるで違います。  そうですとも。綾瀬たちは、なんてったって文明人なんですから。リアリティだって、4割増しというものです。 【ジャ】「それジャバ他の、ヤフージャバい――たとえバ気象庁にでも、問い合バせジャバウォいウォック」 //「ヤフージャバい」=「ヤフーじゃない」 【渡会】「うふうふ気象庁とかうふうふ。ノートの表紙からいきなり出てきて、そう大上段に構えられましても」 //「うふうふ」は笑い声ですが、文字通り「うふうふ」と読んでください。  たかだか1年前の天気ひとつで、国を引き合いに出されましても。 【ジャ】「ジャバ、ウォレバノートから出てきたことバ、不思議ジャバ? ジャレど、ウォバエバノートウォ信じないウォック?」 //「ウォバエバ」=「おまえは」 【渡会】「すごいですよね。綾瀬、3Dプリンターってはじめて見ました。聞きしに勝る高性能ぶりです。技術の進歩にびっくりです」  3Dプリンターで、生き物ができる。ということは、つまりは。食糧危機は、解消されたも同然です。 【ジャ】「フシュルル。なにウォ言ってるのかバウォくバからないジャバ、ウォバエバウォレウォ、信じてないことだけバたしかウォック」 【渡会】「そりゃまあ今日び、ノートの中から出てくるぐらいじゃ、ちょっとインパクト足りませんし」  いろんなものが、いろんな中から。呼ばれて飛び出る、サイバー的なソサエティですし。  ウソから出たマコト、スマホから妹、雪から神様――すべては、サイバー的なソサエティの成せるワザですし。 【ジャ】「それジャバ他の、ノートジャバい――たとえバいったい何の中から出てきたら、ウォバエバノートウォ信じるウォック?」 【渡会】「そりゃまあせめて、モナカの中から出てくるぐらいはしていただきませんと」  たとえば、そう。サイバー的なソサエティからは少し離れた、日本古来の伝統的甘味なんていかがでしょう。 【ジャ】「ボナカ」 【渡会】「違います。ボ、じゃありません、モナカです。漢字でサイチュウと書く、あのモナカです」  やんごとない、丸いお菓子のその中から。ピャっと出てくるぐらいじゃないと、綾瀬の心は動かないでしょう。 【ジャ】「もしウォレバ、ボナカの中から出てきたら、ウォバエバ素直に信じるウォック?」 【渡会】「モナカです。ええ、信じますよ。当たり前です。信じた上で、モナカのメーカーに問い合わせます」  なぜならモナカは、モナカの皮は、モチ米でできているからです。綾瀬はおもちが大好きです。 【ジャ】「天気バ問い合バせないのに、ボナカバ問い合バせるんジャバ。そんなの不公平ウォック」 【渡会】「だって、気になるじゃないですか。これってアタリなんですか、って。すごいかわいいの出てきたんですけど、って」  1日の天気は国に問い合わせたりしませんが、1個のモナカはメーカーに問い合わせられて然るべきです。  日本の食の安全は、厳正に、管理・監督・監視を受けて然るべきです。安心・安全・あれば便利な国産です。 【ジャ】「いいから《早/バや》く、気象庁ジャバ確認するウォック。そしたらウォレバ正しいと、証明してくれるジャバウォック」 【渡会】「ヤですよ、ていうか気象庁しつこいですね。ウォッくんどれだけ国を信奉してるんですか。愛国心の塊ですか」  《忠君愛国/ちゅうくんあいこく》、《七生報国/しちしょうほうこく》、欲しがりません勝つまでは。  ウォッくんはまったく典型的な、模範的な日本人的日本人なんですから。 【ジャ】「それバ、ウォバエバノートのことウォ、信じる《気配/けバい》バないからウォック」 【渡会】「ありますよ、失礼なウォッくんですね。科学技術のドレイでおなじみの渡会綾瀬ですよ。目覚ましナシでは起きられないですよ」  科学技術の飼い犬、さながら飼い綾瀬ですよ。  10回以上のスヌーズ機能が欠かせませんよ。  そうです、スヌーズ機能です……あれ、そういえば『スヌーズ』って、いったいどんな意味でしたっけ。 【ジャ】「科学バ関係ないウォック。ウォレの《話/バなし》ウォ聞くウォック」 【渡会】「すぬーず、すぬーず……」  綾瀬の中に萌え出でた疑惑の芽は、たちまち積乱雲のようにむくむくと膨らんで、綾瀬を『スヌーズ 意味』で検索せしめました。 【ジャ】「ウォレの《話/バなし》ウォ聞くウォック」 【渡会】「あっ! ウォッくん、ちょっとこれ見てくださいウォッくん!!」 【ジャ】「今度バいったい何ジャバウォック?」 【渡会】「意味が! 『スヌーズ』の意味が『居眠り』だなんて! いったいどういうことですかウォッくん!!」  居眠り、だなんて。つまり、《居眠り/スヌーズ》機能だなんて! 【ジャ】「ウォバエバいったいなにウォ言っているのか、ちっともバからないジャバウォック」 【渡会】「だからそれだと、まるで綾瀬が、お寝坊さんみたいになっちゃうじゃないですか!」  屈辱です。子どものころ着ていた英語のTシャツが『YOUNG&EASY』だったことぐらい屈辱です。  ウォッくんが正しかったんです。綾瀬たち、現代日本人に欠けている心の機能は、スヌーズではなく愛国心です。  敵性語に依存しているサイバー的なソサエティは、近い将来、きっと手ひどいしっぺ返しを食らうんです。そうなんです。 【ジャ】「ウォレの《話/バなし》ウォ聞くウォック。ウォいジャバ? ウォレは――」 【渡会】「聞いてます、聞いてますって。ヤフーがサイバーテロに遭って、ウォッくんは科学の申し子なんですよね」  綾瀬は心に決めました。海外旅行はいたしません。  あるひゐやべつとうがウネウネ踊るお国に出掛けはいたしません。  きっと海外のひとだって、薄々気が付いているはずなんです。  あるひゐやべつとうの複雑怪奇さに気が付いているはずなんです。  ですから海の向こうでは、漢字や仮名のTシャツが流行るんです。そうなんです。 【ジャ】「ウォレバ1個も喋っていないことジャバり、並べてどうするつもりウォック。そうジャバくて、ノートのことウォ信じるウォック」 【渡会】「わかりました。たとえばもし本当に、すべてウォッくんの言う通り。ノートに書かれたこと全部ウソになるとするじゃないですか」  文字とは、文化を、歴史を、国家を。それらすべてを、形成せしめる屋台骨です。  漢字や仮名の、とめ・はね・はらい、は豊かな心の、機微を表す《徴/しるし》です。  ですから、そうです。お国の問題というよりも、これは言語の問題なのです。  そうです、言語の問題なのです。海を隔てる隔てないの問題ではありません。  海外は海外でも、近しい言語を公用しているお国であれば。  たとえば、そうです。漢字文化圏のお国でさえあれば。  海を渡って、綾瀬が門戸を叩く可能性を、綾瀬は否定をいたしません。  ですから、そうです。会田くんとの新婚旅行は台湾にしましょう。  台湾だったら、漢字のお国ですし、夜の屋台もありますし、青い海だってきちんとあります。  あるひゐやべつとう文化圏に勝るとも劣らない綺麗な海が、きっとあります。楽しみです。 【ジャ】「もしかしなくても、その《通/とウォ》りウォック。ノートに書かれた出来事バ、すべてバウソになるウォック」  ウォッくんの、ひとかたならない愛国心に免じて。 【渡会】「もし、本当に。ウォッくんの言う通り、すべてがウソになるんだったら――つまり、それって、つまりはですよ?」  少しだけ、綾瀬は折れてあげることにしました。 【ジャ】「つバりつバりでなんジャバウォック」 【渡会】「つまり、ノートを書いた綾瀬も、自分でノートに書いたことを、ウソだと思ってなきゃいけなくないですか?」  ノートに書かれた、すべてのことが、ウソになる――百歩譲って、よしとしましょう。  そういう機能が、たとえば目覚ましにおけるスヌーズ機能のように、このノートに備わっていることといたしましょう。  ですが、それでも、そのことを――書かれたことを、綾瀬がウソだと思っていないということは、おかしなことだと思います。  とても簡単な理屈の話です。  たとえば『人間は死ぬ』という理屈があったら、死なない人間がいてはいけません。  たとえばすべてウソになるノートなら、その『すべて』の中に、綾瀬も含まれていなければいけません。  ですが、綾瀬は、知っています。  1年前の、会田くんへの告白の日は。雨などではなく、晴れだったのだということを。  間違っているのは綾瀬、ではなく、株価底値のヤフーの天気の方こそが、間違っているのだということを。  あの日の晴れが、木漏れ日が。舞い散る花弁の一枚一枚が。  ただの一片の疑いようもなく、真実なのだということを。  綾瀬は、知っているんです。 【ジャ】「それジャバ問題ないウォック。この世の中で、ジャバひとり。ノートウォ書いた本人だけバ、ウソの影響ウォ受けないウォック」 【渡会】「ひええええ。ですから、そんなツゴーのよい話が、あるわけないじゃないですか」  綾瀬は、花とゆめ乙女には似つかわしくなくない、素っ頓狂な、はしたない声を上げました。 【ジャ】「ツゴーバウォいとかバるいとか、そういう《話/バなし》ジャバいウォック。それバ、そういうものウォック」 【渡会】「いいえ、いいえ。ゴツゴー主義にもホドがあります。デスノートだって、《夜神/やがみ》《月/ライト》だって、名前を書かれたら死ぬんです」  綾瀬の蔵書は、なにも少女漫画だけではありません。  夢見る乙女のたしなみとして、押さえるべきところは、きちんと押さえてあるんです。 【ジャ】「他のノートバ関係ないジャバ。ウソノートバ、ノートウォ書いた本人だけバ、ホントのことウォ《覚/ウォぼ》えていることバ重要ウォック」 【渡会】「なんですかそれ。いったいどういうことですかそれ」  デスノートでたとえるなら、夜神月だけは死なない、とかそういう話ですか。ちょっとやだ、無敵じゃないですかそれ。 【ジャ】「ウソというのバ、ホントバあって、バじめてウソになるウォック。誰もウソジャと知らなけれバ、それバホントのことウォック」 【渡会】「ウソがホントで、ホントがウソで。なるほど、さしずめ。トンチのようなものですか」  デスノートでたとえるなら、顔と名前が一致しない同姓同名の別人は死なない、とかそういう話ですか。 【ジャ】「《違/ちバ》うジャバ。トンチジャバくて、理屈の《話/バなし》ウォしているウォック」 【渡会】「理屈もトンチも、似たようなものです。だいたいの理屈は、トンチで話が通ります」  理屈は《ファジー/FUZZY》で、トンチは《ファニー/FUNNY》です。ZかNかの違いです。  Zを90度回転させれば、Nになります。  複雑怪奇なあるひゐやべつとうも、たまには仕事をするようです。  よいでしょう。綾瀬の新婚旅行先の候補には、フィリピンも追加いたしましょう。タガログ語までなら許しましょう。 【ジャ】「理屈バ理屈、トンチバトンチ。理屈とトンチバ一緒のものジャバいウォック」 【渡会】「《一緒/おんなじ》です。コロンブスの卵、ニュートンのリンゴ。すべて、トンチの《類/たぐい》です」  偉いひとの名言や功績は、その大抵は、トンチで片が付きます。  誰にでもすぐ気が付きそうで、気が付かないのがミソなんです。  そして誰にでもわかりやすいからこそ、人口に広く膾炙するのでしょう。  ですからやはり、《曖昧/ファジー》ではなく《愉快/ファニー》であればこそなんです。 【ジャ】「それジャバ、トンチでウォいウォック。トンチでウォいから、ウォレの《話/バなし》ウォ聞くウォック」 【渡会】「かしこまりました。お伺いしましょう。ウォッくんの、トンチ小話をひとつお伺いしましょう」  さてウォッくんは、いったいどんなトンチをこれから披露してくれるというのでしょう。  屏風から虎を出すのでしょうか?  この橋渡るべからずでしょうか?  ワクワクしますね。綾瀬は渡会綾瀬ですので、どんな橋でも渡らいですよ。 【ジャ】「これバたとえバの話ジャバ。たとえバこの現実世界バ、ノートの形ウォしているものジャとするウォック」  ――そうして、ウォッくんはしずかに語りはじめました。  それは、それは。  とても、とても。  《寓喩的/アレゴリカル》な、ウソとノートのお話でした。