//---------------------------------------------------------------- // こんな安楽椅子探偵は嫌だ! // Copyright (C) 2025 3 on 10 -サンオントウ- // // ・「//」で始まる文章は、指定などのコメントアウト文です。 // // ・「/*コメントアウト*/」こちらもコメントアウト文です。 // // ・「#〜」はシナリオ整理番号です。 // // ・《漢字/かんじ》でルビを振ってあります。 // // ・文字を強調したい場合、《単/、》《語/、》のように //  1文字ごとに『、』でルビ表記してあります。 // // ・【記号】「台詞」 //指定 で指定が付記してあります。 // //---------------------------------------------------------------- /*----登場人物説明ここから---------------------------------------- 【バン】……主人公:大河内万象。16〜17歳ぐらいの学生       一人称「私」。主人公→ヒロインの呼び方「トト」 【トト】……ヒロイン:斗々希トト。見た目12〜13歳ぐらいの自称探偵       一人称「ト」。ヒロイン→主人公の呼び方「バンショー」 ------登場人物説明ここまで--------------------------------------*/ /*--◇あらすじここから-------------------------------------------- 主人公の大河内万象(以下、バンショー)は ヒロインの斗々希トト(以下、トト)に 学園に通いながら日々食料を届ける毎日を送っていた。 ある日、バンショーは胴体が真っ二つになった男性を通学路で目撃し そしてその翌朝にはその、胴体が真っ二つになったはずだった男性が まるで何事もなかったかのように同じ道を歩いている姿を目撃する。 世の不可解な出来事はすべてトトの仕業だと疑っているバンショーは 今回のこの不可解な真っ二つ胴体元通り事件もトトの仕業だと疑うが トトにはまったくもって心当たりがないようだった。 困惑するバンショーにトトは「バンショーの力になりたい」と言って 真っ二つ胴体元通り事件に関する推理を始めるのだった。 ----◇あらすじここまで------------------------------------------*/ #s01_01 //Detective.1 眠る少女とヒレカツサンド - Introduction - /*----シーン説明ここから------------------------------------------  学生の大河内万象(バンショー)は、ソファで寝ていた探偵の  斗々希トト(トト)を起こして「話したいことがある」と言った。  トトは嫌だと言いつつも、バンショーのために話を聞くのだった。 ------シーン説明ここまで----------------------------------------*/ //背景:探偵部屋(夕) //バン!と大きな音を立てて扉を開けて、バンショーが部屋に入ってくる 【バン】「トト! 起きてるか!?」  乱暴に扉を開け放ち、部屋中に響く大声で私は言った。  マナーが悪いし騒々しいと頭によぎったのも一瞬、そのすぐ後に無駄な思考だと切り捨てる。  なぜならこの部屋の主に対するマナーなど、私はもとより持ち合わせてなどいないのだから。  それに実際問題、《彼女/トト》はどうせ今日も寝ているのだろうから、最初から大声で入室してしまうのが手っ取り早い。 【 ? 】「……んぅ……」  すると《堆/うずたか》く積まれた本の向こう側から、寝起きの人間が発する特有の呻き声のような音が聞こえた。  私は開け放った扉を抜けて部屋に入って、音がした方へと目を向けた。  果たしてトトはそこで寝ていた。  本来は腰掛けるほどのスペースしかないはずの1人掛け用のソファはしかし、小さなトトの体を横たえるには十分な広さを確保しているようだった。 【トト】「バンショー……おはよう……」 【バン】「おはようトト。そしてごはんだ」 【トト】「んんぅ〜〜……」  寝ぼけ《眼/まなこ》を《瞬/しばたた》かせながらトトが言う。  大きい目を、ぱちぱち……ぱち……。  小さい体で、ごそごそ……ごそ……。 【トト】「……ねむい……ぐぅ――あびゃびゃびゃ!」  私は二度寝に入ろうとしたトトの体を揺すってすぐさま叩き起こした。 【バン】「情けない声を上げてないで、シャキッとする。そしてごはんだ」  ほら、と私はコンビニ袋から食料を取り出してトトに差し出す。 【トト】「ううぅ……ごはん……今日の、ごはんは……?」 【バン】「今日のごはんはヒレカツサンドだ。さあ食ってくれ」  とある事情から、今日はトトの機嫌を取っておきたかったため、フライの中でも値段の高かったヒレカツサンドの方にした。  本当はトトの好物であるエビフライの方が良かったのだが、コンビニに置いていなかったから苦肉の策だ。ヒレカツだけに。 【トト】「ヒレカツ……いただきます……」  トトは私からヒレカツサンドを受け取って、包装を乱暴に破って。  ヒレカツサンドをヒレカツ部分とサンド部分の食パンに分解して。 【トト】「もぐもぐ……もぐ……」  そうやって取り出したヒレカツ部分だけを、満足そうに頬張った。 【トト】「ひとつ、ひとよりヒレカツサンド……ふたつ、フライドチキンパン……」 //歌うように口ずさみながら(元ネタ:大ちゃん数え唄)  胸焼けしそうなぐらい頭の悪そうすぎることを節を付けながら口ずさむトト。  包装紙の上に打ち捨てられたサンド部分の食パンが、恨めしそうに私を睨んでいる気がしてならない。  しかし、それは筋違いの逆恨みというものだ。恨むのなら、分解した当人の偏食をこそ恨んで欲しい。 【バン】「食べたか? 食べたな。よし、じゃあ――」 【トト】「バンショー……飲み物、ちょうだい……」 【バン】「そうだったな。ほら飲み物だ」  私はコンビニ袋から《柑橘系の清涼飲料水/オレンジジュース》を取り出してトトに手渡した。 【トト】「ごくごく……ごく……」  受け取ったパックにストローを差してこくこくと飲み込んでいくトト。  トトの食べ物・飲み物における趣味嗜好は、びっくりするほど単純で。  食べ物は揚げ物だけ、飲み物は甘い飲み物だけ、それ以外は全部ゴミ。  将来的に体を壊すことは疑いようがないが、そういう嗜好らしかった。 【バン】「飲んだか? 飲んだな。だったらいよいよ私の話を聞いてくれるかな」  そうしてトトがひとしきり食べて飲んだのを見届けた私は、そんな切り出し方をした。 【トト】「話……? バンショーから、話……」  いつもとは違う私の様子に、怪訝そうにトトもそう返す。  いつもだったら私からトトに無用な話などは一切しない。  トトに食料を渡して食べさせて、軽く身の回りの世話をしてからそのまま帰るのが常だった。 【バン】「そうだトト。折り入って君に聞いてもらいたい、そして答えてもらいたい話があるんだ」  しかし今日に限っては違う。私はトトに聞いてもらいたい話があった。 【トト】「嫌……」  飲み食いしている時の満足そうだった表情から一転、トトはその精巧な人形じみた顔を鈍重に曇らせた。 【トト】「何も聞かない、聞きたくない……きっと、その方がいい……」  拒絶反応を示すトト。まるで強迫観念に駆られているかのような。 【バン】「落ち着くんだトト、大丈夫だから」  トトのその拒絶反応の理由も原因も、私はあらかじめ知っていた。 【トト】「うう……嫌だ……」  知っていて、それでも尚どうしてもトトに話を聞いて欲しかった。 【バン】「頼むトト。黙って話を聞いてくれ、そして私に教えて欲しい」  すべてはそう、私自身の大いなる利己心と内なる好奇心のために。 【トト】「ううう嫌だ嫌だ何も聞きたくない何もしたくない何も考えたくない……ナメクジになりたい……」  いつも部屋でトロトロと寝てばかりいる、既にだいたいナメクジじみているトトはそんなことを言った。 【バン】「大丈夫だトト、君の考えているようなことにはならないから」  私は嘘を吐いた。  なるかもしれない――いいや、おそらくトトが考え、恐れている通りになるのだろう。 【トト】「だけど……」  未だ納得しかねるというように、トトは言葉を濁して俯いた。 【バン】「お願いだよ、トト。君の力が必要なんだ」  私はトトに頼み込む。いまの私はきっと苦虫を噛み潰したような顔をしている。  吐き気がする。自らの信条に《悖/もと》る行為を、他人に強要しようとしていることに。 【トト】「もしかして……バンショー、困ってる……?」  そんな私の雰囲気を察してか、あるいは単なる気まぐれか。  俯いていた顔から目線だけを少し上げて、トトは帽子の《庇/ひさし》の下から覗き込むように私を見上げた。 【バン】「ああ、困っているんだ――情けないな、私は」  純粋な気遣わしげなトトの視線から逃れるように、私は思わず目頭を押さえた。  他人に頼る、この私が。しかも、これといった対価すら用意していないままに。 【トト】「もし……バンショーが困ってる、なら……」  強いて言えばヒレカツサンドを用意しただけ。それっぽっちの些細な報酬だけ。  自分だったら他人からの頼みは引き受けない。全部断る。一切の例外なく全て。 【トト】「それなら、うん……力になりたい、な……」  本当はトトだって、トトが何かをすることは本意ではないはずなのに。それでも私のためなら……と。  こうして他人に気を遣わせてしまうだなんて、情けないし、至らない。  トトと関わるようになってから、私は私の不格好さを痛感させられてばかりいる。 【バン】「ありがとうトト。この借りもまた、いずれ必ず」  トトが――見た目にも一目でおかしいとわかるこの奇妙奇天烈が、ひとまず奇人変人の類であることは間違いない。  しかしそれでもこの小さな少女は、自分自身の不利益を押して他人の頼みを引き受けるぐらいにはできた善人だった。 【トト】「それは……返すとか……そういうのは別に、いらない……」 【バン】「君が不要でも、私にとっては必要なんだ。今回の件も、それから、今回の件以外だってそうだ」  私が情けないのも至らないのも、いまは甘んじて受け入れる。  どう取り繕ってもまだ何もできないのは変わらないのだから、仕方がない。  だが、いずれ―― 【トト】「わかった……バンショーの好きにしていいよ……」 【バン】「ああ、好きにさせてもらう。私の信条に誓ってな」  いずれ、トトから受け取った施しは全て返す。そう、いずれ必ず。 【トト】「それじゃあ探偵、する……で、いいんだよね……?」 【バン】「ああ――」  ――さて。それではここで今回の《登場人物/キャスト》をご紹介したい。  こちらの如何にも奇人変人めいた奇妙奇天烈人間の名前は《斗々希/ととき》トトという。  ご覧の通りの変人であり、探偵だ。そして探偵としては、非常に稀有な能力を持っている。  トトの推理の的中率は100%で、いわゆる迷宮なしの名探偵というやつだ。  そして申し遅れて恐縮だが、私の名前は《大河内/おおこうち》《万象/ばんしょう》。  ごく一般的な学生で――今回は、そうだな……さしずめ、探偵の助手役といったところだろうか。  《尤/もっと》も、私にできることはといえば、推理に役立つことではなく、話を聞くことだけなのだが。  これからしばらく、とはいっても短い時間にはなるだろうが、どうぞよろしくお願いしたい。 【バン】「――はじまり、はじまり」  探偵小説だったらお決まりの、読者への登場人物の説明も済ませたところで、それでは話を始めよう。  とはいえ、それでもこれがもし本当に探偵小説だったとしたら、私は思わずこう呻くことだろう―― 【トト】「……? どうしたの、バンショー……」  ――こんな安楽椅子探偵は嫌だ……と。 【バン】「なんでもない、ただの自己紹介だ――さて」  もちろんいまから始まるのは、探偵小説などではない。ごく一般的な学生である私の平凡であったはずの日常だ。  もしもジャンル別にラベルが付けられるとするのであれば、どうかビジネス書か学術書、あるいは却って痛快娯楽小説であって欲しいとそう願うばかりである。 【バン】「あれはつい昨晩のことであり、そして今朝のことでもあるんだが――」  そうして私は私自身の身に降り掛かった奇妙な出来事を、トトへと話し始めるのだった……。